ロコモティブシンドローム対策 ~介護要らずの体を手に入れる~
加速していく日本の超高齢化社会において、もはや国家レベルでも最重要課題となっている「ロコモティブシンドローム」。運動器の障害による要介護状態や、要介護リスクの高い状態を意味する新語ですが、「メタボリックシンドローム」の持つインパクトや、目に見える分かりやすさに欠けるせいか、切迫したせいか、切迫した状況であるにも関わらず、まだまだ十分な対策ができている方は少ないのが現状です。
2016年7月発表の日本人平均寿命は、男性が80.79年、女性が87.05年、医療の進歩に伴い、順調な上昇を続けています。一方で、医療や介護に依存せず自立した生活を送ることができる期間を指す「健康寿命」。実は平均寿命の伸びに対しこの健康寿命の伸びが鈍いということが、ここ最近問題視されてきています。平均寿命はどんどん伸びていくのに、健康寿命が伸び悩めば、それはすなわち要介護者が増加することを意味します。少し古いデータではありますが、実際に2000年から2010年の10年間で、要介護認定者数は約2倍に増えています。そして、その2割強が「関節の病気」や「転倒による骨折」など運動器の障害に起因している、つまり「ロコモ」の状態であるというのです。
今後も医療の進歩は飛躍的に進み、平均寿命は順調な伸びを続けていくことは揺るぎありません。癌も多くのケースで完治が見込め、心臓や脳の手術も飛躍的な進化を遂げ、IPS細胞の実用化もすぐそこまで迫っています。近い将来、平均寿命が3ケタに達する日も夢ではないかもしれません。一方で、運動器の低下を意識することなく今の生活を続けていると、40歳以上の5人に4人(!)が、将来要介護になる可能性があることも判明しています。つまり介護を受ける人口、介護を受けながら過ごす期間共に、今後どんどん増大していくことは、ほぼ確実なのです。2013年における、平均寿命と健康寿命の差は、男性9.02年、女性12.40年でした。このまま手をこまねいていれば、その差は確実に開いていきます。
そもそも、そのような事態に陥る大きな要因として、今の世の中が昔と比べて便利すぎることが挙げられます。都市部においては、バスや地下鉄といった交通網が張り巡らされ、駅にはエレベーターが完備し、地方都市ではどこへ行くにも車移動が当たり前。買い物はインターネットで家に居ながらにして完了し、大学入試の合格発表までインターネットで行われている。運動器がみるみる衰えていくのは必然と言えます。このままでは、今の20代30代の人達は、40代~50代で要介護となってしまう可能性も大いにあり得ます。そして長い長い期間、その状態で生活し続ければならない、このままでは、そんな未来がすぐそこまで迫っています。
ロコモになる三大要因は「バランス能力の低下」、「筋力の低下」、「運動器の疾患」(骨や関節の病気)です。バランス能力や筋力が低下すると、転倒リスクが高まり、骨折しやすくなります。運動器の疾患としては、皆さんご存知の骨粗鬆症や、膝の骨や軟骨が徐々にすり減る変形性膝関節症、椎間板が薄くなったりして、腰痛や痺れを引き起こす変形性脊椎症などが挙げられます。また、骨折や痛みで寝たきりもしくは運動量が大幅に減った状態が続くと、筋力はさらに低下するといった悪循環にも陥りがちです。ロコモにならないためには、上記三大要因を予防することが大切ですが、高齢になるほどそれは困難となるため、できるだけ早めの対策が必要であると言えます。とりわけ40代から衰えが目立つのが筋力であり、しっかりと筋肉を減らさない策を講じる必要があります。
「自分はずっと運動を続けているから大丈夫!」と安心されている方も要注意です。人間の体は、繰り返し同じ刺激を与えていると省エネモードになってしまい、筋肉が鍛えられずに、加齢とともに減っていってしまっている場合があります。マラソンランナーの増田明美さんが「毎日10キロ走っていても筋肉が衰えていく」と何かのインタビューでおっしゃっていました。彼女ほどのランナーの場合、10キロのランニングは単なる日常生活ということなのでしょう。
いつまでも介護要らず、病院要らずの体を維持するために、専門家の指導の下での適切な運動習慣と、定期的なフィジカルチェックを生活の中に組み込むことが、これからの日本社会におけるスタンダードとなりつつあります。患ってから治すよりも、未然に防ぎ、快適で有意義な時間を過ごすことを目指せる時代なのです。