ストレッチの効果と必要性
ここ数年、ストレッチに対する関心は急速に高まってきています。ある種のブームと言っても過言ではありません。ストレッチは、手軽に楽に行える健康法であり、多くの人が日常生活の中に習慣として取り入れるようになってきているのは大変喜ばしいことです。
体の柔軟性は人それぞれ。他人の体の柔軟性を経験することは不可能ですが、もしも柔軟性の低い体の人が、柔軟性の高い体に入れ替われたら、同じ人間の体とは思えないくらい楽に感じるとも言われています。
「こんなに体が軽いんだ!」
「こんなに腰が楽なんだ!」
動作一つ一つに驚き、感動を覚えることでしょう。体が楽になれば、積極的に外出するでしょうし、仕事の効率も飛躍的に上がるかもしれません。そんな、定着した感のあるストレッチではありますが、人の体の柔軟性が上がる仕組みについて、意外と誤解をされている方が多いように思います。多くの方は、筋肉はゴムのように伸縮するものだと考えています。ストレッチをして筋肉を引っ張れば伸びる、というイメージです。でも実際には、筋肉がゴムのように伸び縮みすることはありません。筋肉は、どちらかというとロープに近いものです。ロープを引っ張っても伸びませんが、新たなロープを結びつければ長くなります。ストレッチの目的は、筋肉を引っ張って伸ばすことではなく、筋肉を追加して長くすることにあります。筋肉は、筋節という最小単位を一つ一つチェーンのように繋ぎ合わせた筋線維、それの集合体です。筋節の数が増えれば筋肉は長くなり、関節の可動域が広がって柔軟性が増すというわけです。筋節の数を増やすには、毎日継続的にストレッチを行って、細胞分裂を起こし続けるしか方法はありません。
ところで、ストレッチにダイエット効果はあるのでしょうか?
残念ながら、ストレッチという行為自体で消費するカロリーは、ゴミ出しと同程度と表現されるほどに微量であり、脂肪燃焼効果があるとは言い難いのが現状です。また、人の体脂肪が燃焼するためには、リパーゼという酵素が必要です。有酸素運動などでは、リパーゼの分泌が活性化されますが、残念ながら、ストレッチではその効果は確認されていません。つまり、ストレッチをすれば痩せやすいという、直接的な因果関係は証明できないということです。
ただし、ストレッチをすれば疲労から回復しやすいということは言えます。筋肉が短い状態で動いていると、筋肉は緊張状態が続くので疲れやすくなります。一方で、筋肉が適正な長さになると、筋肉の緊張している時間が短くなり、疲れにくいのです。柔軟性の低い人が、一生懸命ウォーキングをしたら、次の日まで疲れが残り、積極的にまた歩こうとは思わないでしょう。しかし、柔軟性が高い人ならば、次の日にはすっきりと体が楽になっていて、「またアクティブに一日を過ごそう!」という気持ちが起こりやすくなると考えられます。そういった意味で、間接的には「ストレッチをすれば痩せやすくなる」と言えそうです。
また、「脚のストレッチをすれば、脚の皮下脂肪が落ちやすくなる」といった類の理論もよく目にしますが、それらにもかなり無理があります。体脂肪が燃焼する際は、全身の体脂肪が万遍なく使われ、特定の部位の脂肪を狙い撃ちにすることはできないからです。
最後に一つ、柔軟性は高ければ高いほど良いというわけではありません。過剰に柔軟性が高い人は、年齢とともに筋肉のサポーターが衰えてくると、今度は関節が緩みやすいという問題が起きてきます。そうすると、股関節や膝の痛みを抱える可能性などが生じてきてしまいます。柔軟性の高い人は、ストレッチよりも筋力トレーニングを行い、筋肉のサポーターの衰えを食い止めることを優先させた方が良い場合もある、ということも頭の片隅に置いておいた方が良いかもしれません。